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2025年度人工知能学会全国大会にて企画セッションを開催いたしました

 

 2025527日(火)~30日(金)に大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で開催され2025年度人工知能学会全国大会(JSAI2025)において、企画セッション「ドメイン特化生成AIの共創・協調に向けて」(セッション番号:KS-32)を530日(木)に実施いたしました。

本セッションは、2025年大阪・関西万博との連携企画として開催され、生成AIの研究開発における次なるフロンティアとして注目されるクローズドデータ環境下でのAIモデル共創・協調の可能性について、講演およびパネルディスカッションを通じて多角的に議論しました。

 


【セッション概要】

  • 日時:2025530日(金) 12:0013:40
  • 会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪)C会場(オンライン配信あり)
  • セッション番号:KS-32
  • タイトル:「ドメイン特化生成AIの共創・協調に向けて」
  • アーカイブ:https://youtu.be/sukIu2vUfI4?t=13588

【オーガナイザー】

  • 是津 耕司(国立研究開発法人情報通信研究機構 / 名古屋大学)
  • 黒川 茂莉(株式会社KDDI総合研究所)

【セッション内容】

本セッションでは、以下の講演が行われました:

  • 講演1:「AIモデルの共創・協調の意義、現在地」 
    是津 耕司(国立研究開発法人情報通信研究機構 / 名古屋大学)

この講演では生成AIの技術動向と社会的課題について語られ、特定の一社によるAI開発だけでなく、共創・協調型AIの必要性が述べられていました。特に、大規模言語モデル(LLM)の急速な普及、それを支える海外メガテックによる技術・データの独占がもたらす課題が指摘され、今後はオープンデータの枯渇を見据え、クローズドデータや合成データの活用が重要になると説明があり、さらに、ドメイン特化型LLMの開発や、複数のAIモデルを連携させる動きも紹介されました

  • 講演2:「AIモデルの共創・協調に向けた技術的アプローチ」黒川 茂莉(株式会社KDDI総合研究所)

この講演ではAIモデルの「循環進化」に関する技術的な取り組みと社会実装の課題について述べられ、特に、継続的に学習・改善される「循環進化型モデル」の重要性が強調されました。従来の中央集権的な開発手法に対し、今後は多様な主体が関与する分散型・参加型のモデル構築が求められると指摘され、その実現に向けた「攻め(性能や適応力)」と「守り(参加・透明性・セキュリティ)」の技術要件が整理され、連合学習が中心的な技術として紹介されました。技術だけでなく、モデル共創の体制づくりの必要性も示され、社会実装に向けた方向性を明確にする内容となっていました。

  • 講演3:「AIモデル共創フレームワーク」鈴木 泰山(株式会社ピコラボ)

この講演では、AIモデルの共創・協調を支援する「AIモデル共創フレームワーク」について発表されました。KDDI総合研究所の発表を受け、具体的にどのようにモデルを開発・進化させていくかに焦点が当てられていて、実務面の課題としてオープンデータの限界やプライバシー情報の扱いが挙げられた。
これらを乗り越える手法として、複数の主体が連携しながらAIを共同開発する「共創型AI開発」の意義が紹介されました。ピコラボが開発する「xData Edge FL」は、その実現を支えるフレームワークであり、安全性・信頼性を確保しつつAI学習を可能にする仕組みで、同フレームワークは特定企業主導から脱却し、民主的なAI開発文化への転換を促す重要なインフラであると強調され

  • 講演4:「スマートモビリティ/スマートシティでの応用例」

 鮫島 淳志(TOPPANデジタル株式会社)
 山口 修平(KDDI株式会社)

 三阪 和弘(グリーンブルー株式会社)

この講演では、「AIモデル共創プラットフォーム」の社会実装に向けた、交通・地域社会・物流の3領域における応用事例が紹介されました。
KDDI
株式会社は交通リスク予測や見守りMaaSの導入事例を通じて、複数企業との連携や自動運転への応用、官民連携による共通基盤の整備の必要性を示しました。
TOPPAN
株式会社はスマートシティの構築における住民・自治体・企業間のデータ利活用の課題を整理し、共助による情報収集や地域経済予測といった住民参加型共創の意義を強調しました。
グリーンブルー株式会社からは物流の領域において「2024年問題」への対応として、マルチモーダルAIと連合学習を活用したパーソナライズドなスマート運転支援の実証が進められていることを紹介しました。
各事例は、共創型AIが多様な主体とニーズに対応しながら持続的に進化し、社会課題の解決に資する新たな仕組みであることを示す重要な実証成果として位置付けられていました。

  • ショートトーク:「NEC/ギリアの取り組み」
     林谷 昌洋(日本電気株式会社)
     西村 光平(ギリア株式会社)

日本電気株式会社(以下:NEC)およびギリア株式会社によるショートトークが行われ、それぞれの技術的な取り組みが紹介されました。
NEC
は、「不均一モデル構造の連合学習」に関する研究成果を報告しました。この技術は、従来の連合学習が抱えていた「全クライアントが同一のモデル構造でなければならない」という制約を克服し、各クライアントが異なるモデルを用いたままでも効率的な学習と推論が可能となる点が特徴です。また、京都大学との共同研究として、創薬AIの分野における秘密計算と連合学習を組み合わせたアプローチの精度・処理速度に関する検証結果も共有されました。
続いてギリアは、合成データを活用した機械学習の実証事例を紹介しました。特に、現実のデータが不足している領域において、シミュレーションや生成AIによって作成された合成動画を用いることで、ドメイン特化型AIの学習データとしての有効性が期待される結果が得られたと報告しました。

 

これらのショートトークは、連合学習や合成データといった先端技術が、共創的なAI開発の基盤を拡張し、より柔軟かつ持続可能な技術応用を支える可能性を示すものでした。

  • 講演5:「パネルディスカッション」
    本セッション後半では、登壇企業8社によるパネルディスカッションが実施され、2つのテーマを軸に多角的な議論が交わされた。

 

  • テーマ①:「独創VS共創  生成AIの進化に良いのは?」
    最初の議題では、生成AIの開発や社会実装において、「個社による独自開発(独創)」と「複数組織による連携開発(共創)」のいずれが望ましいのかが議論されました。
    このテーマでは、「独創か共創か」という二項対立ではなく、目的や状況、フェーズに応じたハイブリッドなアプローチの必要性が浮き彫りになりました。中でも、「共創を前提にしながら、どこに独創性を残すか」が今後の生成AI開発・社会実装における鍵となる可能性が示されました。

 

  • テーマ②:「生成AIへのデータ提供  利便性と安全性の境界線」
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    つ目のテーマでは、生成AIの社会実装に不可欠な要素である「データ提供」について、利便性と安全性の両立に関する課題と展望が議論されました。
    このテーマでは、「利便性と安全性」という単純な対立を超え、受容性・理解促進・トレーサビリティ・技術革新・合意形成といった複数の視点が交差している実態が明らかになりました。

 

最後に
2時間近くにわたって行われた本セッションでは、技術・制度・ビジネス・倫理といった多層的な視点から、生成AIの共創・協調に向けた未来が語られました。
各企業による講演に加えて、複数の企業による応用事例の紹介や、登壇者同士のパネルディスカッションを通じて、「共創」と「独創」、あるいは「利便性」と「安全性」といった対立軸に対する、多様な意見が交わされました。
パネルディスカッションに関しては、YouTubeにて公開されていますので、是非ご確認ください。

 

 

 

 

 

【本件に関するお問い合わせ先】 

安全なデータ連携による最適化AI推進コンソーシアム

E-mail: consortium-safedataai@kddi.com

 

お問合せフォーム:お問い合わせ - 安全なデータ連携による最適化AI技術の研究開発